カウンセリングにおける逆転移の概要と気づいたときの対処法

「カウンセリングの逆転移ってどのようなもの?」
「カウンセリングにどのような影響を与えるの?」などの疑問を抱いていませんか。詳細をつかめず心配している方もいるでしょう。

逆転移はカウンセリングの過程で生じるカウンセラーの個人的な感情です。カウンセリングの助けになることもあれば妨げになることもあります。

ここでは、逆転移の概要を解説するとともに逆転移が起こりやすい状況、逆転移に気づいたときの対処法などを説明しています。カウンセリングを受ける方は参考にしてください。

カウンセリングにおける逆転移とは?

逆転移を理解するため、まずは転移について解説します。転移は、クライアントが身近な人に向けていた感情・態度などをカウンセラーに投影することです。投影は、自分の心の中にある感情などを他者がもっていると捉えることを指します。自身の中にもっていた感情や態度などを別の対象へ向けるため転移と呼ばれます。簡単に説明すると、カウンセラーと他者を重ね合わせて、個人的な感情を向けることといえるでしょう。

転移は、カウンセラーに対してポジティブな感情を示す陽性転移とカウンセラーに対してネガティブな感情を示す陰性転移にわかれます(逆転移も同様)。ポジティブな感情として尊敬・信頼・愛情・感謝など、ネガティブな感情として敵意・不信感・猜疑心などがあげられます。

逆転移は、カウンセラーが身近な人に向けていた感情・態度などをクライアントに投影することです。転移との主な違いは、個人的な感情などが向けられる方向です。転移の方向は「クライアント→カウンセラー」、逆転移の方向は「クライアント←カウンセラー」となります。

一見すると特別な関係に思えるかもしれませんが、転移・逆転移とよく似た現象はカウンセリングに限らず日常的な人間関係でも頻繁に起こります。「この人の話を聞くとなぜか感情的になってしまう」と感じたことはないでしょうか。心当たりがある方は、無意識のうちに身近な人に向けていた感情・態度などを投影している可能性があります。

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逆転移の起こりやすい状況

逆転移が起こりやすい状況として以下のシーンがあげられます。

カウンセリングが進んできた段階

カウンセリングが進むと、カウンセラーとクライアントの間で信頼関係が構築されます。定期的に会って、共通の目的のもとプライベートな話を重ねるためです。両者の関係性が深くなると、カウンセラーもクライアントに対して特別な感情を抱きやすくなります。すると、クライアントの何気ない一言や態度がきっかけとなり逆転移が起こりやすくなるのです。カウンセラーは逆転移に注意していますが、それでも完全にコントロールできるわけではありません。

クライアントとカウンセラーの境遇が似ている

クライアントとカウンセラーの境遇が似ている場合や何かしらの共通点がある場合も逆転移は起こりやすくなります。クライアントの話を聞いているうちに、過去に経験した感情などが呼び戻されるためです。例えば、いじめに悩んでいるクライアントの話をきいて、カウンセラーが自身の経験を思い出し、クライアントに対して個人的な感情を向けるなどが考えられます。カウンセラーが、自身では解決できないような体験で生じた傷を抱えている場合や未解決な問題を抱えている場合は逆転移が起こりやすいと考えられています。

カウンセラーが精神的に疲れている

カウンセラーが精神的に疲弊している場合も逆転移は起こりやすくなります。専門的な教育・訓練を受けているカウンセラーであっても、精神的に疲弊していると自身をコントロールすることが難しくなるからです。具体的には、クライアントの感情に引きずられてしまうことやネガティブな感情が引き起こされることなどが考えられます。プロとしてあってはならないことですが、カウンセラーも人間であるため精神的な疲れの影響をゼロにすることは難しいでしょう。

逆転移がカウンセリングに与える影響

逆転移はカウンセリングに良い影響と悪い影響を与えます。具体的な影響について解説します。

メリット

逆転移は、カウンセリングの妨げになるものとして扱われてきました。しかし現在では、カウンセリングに役立てることができると考えられるようになっています。具体的には、クライアントを理解するきっかけにできると捉えられています。カウンセラーの逆転移を手掛かりに、クライアントの対人関係の作り方などを紐解ける可能性があるからです。ただし、逆転移を活用するには、カウンセラーがこれを自覚して適切に扱わなければなりません。

デメリット

カウンセラーが逆転移を適切に扱えないと、カウンセリングに悪い影響が及びます。代表的な例としてあげられるのが、客観性を保てなくなりカウンセリングが停滞してしまうことです。例えば、いじめられているクライアントといじめられていた過去の自分を重ね合わせて、本来であれば聴かなければならない大切な話を聴けなくなる、クライアントの感情に引きずられて精神的に辛くなるなどが考えられます。

逆転移への対処方法

クライアントが逆転移に気づいた場合、どのように対処すればよいのでしょうか。基本の対処法を紹介します。

率直に伝える

逆転移に気づいたときは、そのことをカウンセラーに伝えるとよいでしょう。不快な行動などについて、それとなく知らせるだけで構いません。カウンセラーにとっては、カウンセリングの進め方を見直すきっかけになる可能性があります。カウンセラーは、基本的に逆転移に注意していますが、無意識的に起こる反応をすべて自覚できるわけではありません。クライアントが気づいたことは、率直に話し合うことが大切です。

別のカウンセラーに診てもらう

逆転移がカウンセリングの妨げになっている場合は、カウンセラーの変更を検討してもよいでしょう。例えば、クライアントとカウンセラーの関係を逸脱して個人的な関係になっている場合は、クライアントの利益が損なわれるためカウンセラーの変更を検討できます。ただし、カウンセラーを安易に変更すると、目標を達成しにくくなる恐れがあります。まずは現状についてカウンセラーと話し合ってから、対応を決定することが基本的には勧められます。

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カウンセラーの探し方のポイント

ここからは、カウンセラーを探すときにチェックしたいポイントを解説します。

心理学系の大学院を修了している

必ずチェックしたいのがカウンセラーの学歴です。カウンセリングは、科学的根拠が重視される取り組みです。聞き上手であれば、誰でもできるわけではありません。もちろん、勘や経験だけでできるものでもありません。プロとして活動するため、専門的な知識・技術を学んで、一定の訓練を受ける必要があります。したがって、心理学系の大学院を修了していることが大切になります。カウンセラーの信頼性を評価する基本のポイントです。

臨床心理士資格を所有している

学歴とあわせてチェックしたいのが資格です。重要性の高い資格として臨床心理士があげられます。臨床心理士は1988年に認定がスタートした心理専門職の資格です。[1]認定を受けるため、指定大学院などを修了して資格審査試験に合格しなければなりません。また、資格を維持するため5年ごとに再認定を受ける必要があります。長い歴史と厳しいルールにより信頼性が高い資格と考えられています。臨床心理士資格の有無も、カウンセラーを評価する重要なポイントです。

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取得が容易なカウンセラー系資格を多数取得していない

カウンセラーの中には、カウンセラー系の資格を多数取得してアピールしている方がいます。一見すると信頼できそうに思えますが、その内容には注意が必要です。簡単な講習程度で取得できる資格をアピールしているケースが多いからです。数が多くても、専門的な知識や技術を有している証明にはならないでしょう。一般的に信頼性が高いと考えられている主な資格は臨床心理士と公認心理士です。これら以外の資格を列挙している場合は、詳細を確かめるほうがよいかもしれません。

倫理規定がある学会や職能団体に所属している

所属している学会や職能団体もチェックしておきたいポイントです。多くの職能団体は倫理規定を設けて行動を規律しています。例えば、日本臨床心理士会は「一般社団法人日本臨床心理士会倫理綱領」を定めて、会員にこれを遵守する義務を負わせています。[2]したがって、職能団体などに所属しているカウンセラーは、良識を保持するよう努める傾向があります。また、横のつながりができるため、客観的な視点を保ちやすくなる点もポイントです。

相場程度のカウンセリング料金である

カウンセリングの料金もチェックしておかなければなりません。カウンセリングの相場は6,000~12,000円(60分)程度といえるでしょう。相場より高すぎる場合はもちろん、安すぎる場合も注意が必要です。高すぎる場合はカウンセリングの継続が難しくなります。また、心理カウンセリングと称してスピリチュアル系のカウンセリングをしている恐れもあります。安すぎる場合は、必要な研鑽を積んでいない可能性が高くなります。あるいは、カウンセラーが経験を積むため、料金を安くしていることも考えられるでしょう。

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カウンセリングの逆転移は適切に扱うことが大切

ここでは、カウンセリングの逆転移について解説しました。逆転移は、カウンセラーがクライアントへ個人的な感情を向けることです。適切に活用すればクライアントの理解などへつなげられますが、カウンセラーが自覚できていない場合や適切に扱えない場合はカウンセリングの妨げになる恐れがあります。クライアントが逆転移に気づいたときは、そのことをカウンセラーへ伝えるとよいでしょう。カウンセラーを変更する場合は、学歴や資格などをチェックして信頼性を確かめることが大切です。

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[1]出典:公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会「臨床心理士とは」
[2]出典:一般社団法人日本臨床心理士会「一般社団法人日本臨床心理士会倫理綱領」

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