体が鉛のように重く、ベッドから起き上がれない日々に不安を感じていませんか?
ご家族にとっても、大切な人が動けなくなる姿を見るのはつらいものです。
「怠けているのではないか」と自分を責めてしまうかもしれませんが、それは病気が引き起こす症状の1つに過ぎません。
今は無理に動こうとせず、心と体の仕組みを理解することが回復への第一歩です。
本記事では、うつ病で動けなくなる原因と、つらい時期を乗り越えるための対処法をお伝えします。
ご自身やご家族のペースで、できることから少しずつ始めましょう。
うつ病で動けないのはなぜ?体と心に起きていること
うつ病により体が動かせなくなるのは、決して気合不足や甘えではありません。
脳の機能や身体的なメカニズムに、医学的な変化が生じていることがおもな原因です。
ここでは、うつ病で動けなくなる背景にある体と心の変化について、以下4つを解説します。
- 脳のエネルギーが枯渇している状態
- 意思とは無関係に体が動かない仕組み
- 「怠け」や「甘え」ではない医学的な理由
- 身体症状が気力低下につながることも
それぞれ見ていきましょう。
脳のエネルギーが枯渇している状態
うつ病になると、脳内の情報伝達がスムーズにいかなくなり、脳のエネルギーが極端に少なくなってしまいます。
これは、車にたとえるならばガソリンが空っぽに近い状態です。
燃料がなければ、どれほどアクセルを踏んでも車が走らないのと同様に、脳もエネルギーが不足していれば活動できません。
思考力や判断力が低下し、「着替える」「顔を洗う」といった日常の些細な動作の手順さえ、考えるのが億劫になります。
この状態は、脳が強制的に活動を停止させ、休息によるエネルギー充電を求めているサインといえるでしょう。
意思とは無関係に体が動かない仕組み
「動かなければ」と頭では分かっていても、体が鉛のように重く感じるのは、脳から体への指令がうまく伝わらないためです。
私たちの体は、自律神経やホルモンによって活動モードと休息モードが切り替わります。
しかし、うつ病ではこの調整機能が乱れやすくなります。
とくに、意欲に関わるセロトニンなどの伝達物質が減少すると、意思の力とは無関係にスイッチが入らなくなるからです。
焦れば焦るほどストレスがかかり、さらに自律神経が乱れるという悪循環に陥りやすいため、体の反応はコントロールできないものだと受け止めましょう。
「怠け」や「甘え」ではない医学的な理由
動けない自分に対して「怠けているだけではないか」と罪悪感を抱く方が多くいますが、これは大きな誤解です。
医学的に見ても、うつ病による「動けなさ」は、意欲や行動をつかさどる脳機能の低下による明確な症状です。
骨折した人が走れないのを「甘え」といわないのと同様に、脳の機能障害によって動けないことも、決して本人の性格や根性の問題ではありません。
この症状は、適切な治療と休養によって回復していくものです。
「今は病気がブレーキをかけている時期だ」と捉え、自分自身を責めないようにしてください。
身体症状が気力低下につながることも
うつ病では、気分の落ち込みだけでなく、さまざまな身体的な不調が現れることが一般的です。
不眠による慢性的な睡眠不足や、食欲不振による栄養不足は、体力を著しく奪います。
また、頭痛や胃痛、激しい倦怠感といった症状が続くことで、動くこと自体が苦痛となり、結果として気力がさらに低下してしまいます。
体調が悪ければ動けなくなるのは、人間として自然な防御反応です。
心の問題だけではなく、こうした身体的なつらさがブレーキをかけている側面も大きいため、まずは体の不調を労わることが何より優先されます。
>>関連動画「うつ病と重度なうつ病の違いはコレです」はこちら
うつ病でだるくて動けないときの対処法

体が重くてつらいときは、無理に頑張ろうとせず、今のエネルギー状態でできる範囲のことを実践するのが回復への近道です。
焦りは禁物ですが、少しだけ視点を変えたり、小さな工夫を取り入れたりすることで、気持ちが楽になることがあります。
ここでは、だるくて動けないときの対処法を6つ紹介します。
- まずは「動かない」と割り切る
- 5分だけ何かを試してみる
- ベッドから出て太陽の光を浴びる
- 簡単な食事で栄養を摂る
- 今の気持ちを紙に書き出す
- 調子がよい日の「やり過ぎ」に注意する
詳しく見ていきましょう。
まずは「動かない」と割り切る
本当につらいときは、あえて「今日は何もしない」と決めてしまうことがもっとも有効な対処法です。
うつ病の急性期において、休息は単なるサボりではなく、回復に不可欠な治療行為そのものです。
中途半端に「動かなきゃ」と焦りながら横になっていると、脳は休まらず、エネルギーの回復が遅れてしまいます。
堂々とパジャマのままで過ごし、横になりましょう。
「今は充電期間だ」と割り切り、休むことへの許可を自分自身に出してあげてください。
罪悪感を持たずに徹底して休むことが、結果的にまた動けるようになるための最短ルートです。
5分だけ何かを試してみる
少しだけ動けそうな気がするときは「5分だけ」と時間を区切って、簡単な行動を試してみましょう。
たとえば、座って水を飲む、窓を開けるといった小さなことで構いません。
うつ病のリハビリにおいて「行動活性化」と呼ばれる手法があり、小さな達成感を積み重ねることが意欲の回復につながります。
ポイントは、できなくても自分を責めず、できたら「よくやった」と認めることです。
5分経ってつらければ、すぐにやめても大丈夫です。
ハードルを極限まで下げて、成功体験を少しずつ増やしていくことが自信を取り戻す助けになります。
参考資料:厚生労働省「うつ病の認知療法・認知行動療法 治療者用マニュアル」
ベッドから出て太陽の光を浴びる

もし可能であれば、カーテンを開けて太陽の光を浴びてみるのがおすすめです。
日光には、乱れがちな体内時計をリセットし、夜の睡眠を促すホルモンであるメラトニンの生成を助ける働きがあります。
また、日光を浴びることで、精神を安定させるセロトニンの分泌も活性化されます。
外に出て散歩をするのが難しくても、ベランダに出る、あるいは窓際に行くだけでも十分な効果が期待できるでしょう。
朝の光を数分浴びる習慣を作ることは、自律神経を整え、重たい体を活動モードへと切り替えるための穏やかなスイッチとなります。
簡単な食事で栄養を摂る
食欲がないときでも、脳のエネルギー源となる栄養を少しずつ摂ることは重要です。
調理が不要で、すぐに食べられるバナナやゼリー、ヨーグルトなどを活用しましょう。
とくにバナナには、セロトニンの材料となるトリプトファンや糖質が含まれており、効率的なエネルギー補給に適しています。
完璧な栄養バランスを目指す必要はありません。
まずは口にできるものを食べ、枯渇した脳にガソリンを送ることを意識してください。
家族に頼れる場合は、食べやすいものを用意してもらうなど、食事の負担を減らす工夫も大切です。
今の気持ちを紙に書き出す
頭の中が焦りや不安でごちゃごちゃしているときは、その気持ちを紙に書き出してみるのがおすすめです。
「つらい」「何もしたくない」「申し訳ない」など、浮かんでくる言葉をそのまま書き殴るだけで構いません。
自分の感情を文字にして外に出すことで、客観的に自分を見つめ直し、心の重荷が少し軽くなる効果があります。
これは「ジャーナリング」とも呼ばれる手法で、誰に見せるものでもないため、汚い言葉やネガティブな感情も包み隠さず吐き出してください。
書いたあとは、紙を破って捨ててしまうのもすっきりする方法です。
調子がよい日の「やり過ぎ」に注意する
少し回復してくると「今日は動ける」と感じる日が出てきますが、ここで無理をしないことが肝心です。
調子がよいからといって、溜まっていた家事や仕事を一気に片付けようとすると、翌日以降に反動で強い疲労感に襲われることがあります。
これを「ぶり返し」と呼びますが、回復期にはよくある現象です。
動ける日であっても、自分の中にエネルギーを3割ほど残すつもりで活動を制限しましょう。
「まだできそうだけど、今日はここまでにしよう」とブレーキをかける勇気を持つことが、長期的な安定につながります。
まとめ:うつ病で動けないのは心のSOS!無理せず専門家と回復を目指そう
うつ病で動けない状態が続くと、1人で解決するのは難しく、家族だけで支えるのにも限界があります。
そのようなときは、専門家の力を頼ることも大切な選択肢です。
Heart Life ~こころの悩み相談所~では、公認心理師や臨床心理士といった心の専門家が、あなたのつらい気持ちに寄り添い、オーダーメイドのサポートを行います。
対面だけでなくオンラインカウンセリングも可能で、当日のご予約も承っております。
1人で抱え込まず、まずは私たちにお話を聞かせてください。
あなたの回復の歩みを、全力で支えます。
この記事の監修者
横浜国立大学大学院臨床心理学専修卒業。卒業後、東京都市教育センターで発達に関する相談業務に従事。その後、神奈川県内の心療内科クリニックで心理士業務、東京都内心療内科・心理カウンセリングルームの心理士勤務を経て、2020年6月、渋谷・心理カウンセリングルーム「Heart Life~こころの悩み相談所~」を開業。2024年3月に「Heart Life~こころの悩み相談所~新宿店」を開業。
<公式SNS>YouTubeアカウント:「心理カウンセラー【臨床心理士】がうつ病について語るCh」
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