アダルトチルドレン(AC)という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。子どもの頃に家庭環境や教育環境がもたらした影響が、大人になっても生きづらさや人間関係の悩みとして表れるのがアダルトチルドレンの特徴といわれています。
本記事では、アダルトチルドレンの基本的な概念や特徴、タイプ別の症状、共依存や発達障害との関係などを解説します。さらに、回復への道筋としてカウンセリングや自助グループの活用方法にも触れています。自分や身近な人がアダルトチルドレンかもしれないと感じている場合、理解とサポートのきっかけとして、ぜひ参考にしてください。
アダルトチルドレンとは
アダルトチルドレン(Adult Children)とは、機能不全な家庭環境などによって、大人になっても心身にわたるストレスや生きづらさを抱えている人を指す言葉です。アルコール依存症の親を持つ子どもが抱える心理的影響が発端でしたが、現在ではアルコール依存に限らず、子ども時代に十分な愛情や安心感を得られなかった家庭環境全般が対象になっています。
このような背景がある場合、対人関係で極端に不安や恐れを感じたり、自分の感情を抑え込んでしまったりといった問題が表れることがあります。本人が「なぜ生きづらいのか」気づかずに苦しむケースも多く、アダルトチルドレンという概念を知ることで自分の状態を理解しやすくなる場合があります。
アダルトチルドレンの特徴
アダルトチルドレンとされる人には、以下のような特徴がよく見られます。これらは必ずしも全員に当てはまるわけではありませんが、複数の特徴が継続して表れているなら、アダルトチルドレンの傾向を考慮する必要があります。
- ・自分の感情を表現するのが苦手
- ・常に他人の評価や顔色を気にしてしまう
- ・過剰に責任を抱え込んでしまう
- ・対人関係で相手をコントロールしようとする(または逆にコントロールされやすい)
- ・過度な完璧主義や自己否定感がある
これらの特徴は家庭環境で培われた対処行動が大人になっても変わらず持続しているとも解釈できます。自分の行動パターンを客観的に振り返るうえでも、アダルトチルドレンという概念が一つの手がかりになる可能性があります。
アダルトチルドレンになる原因
アダルトチルドレンは、主に子どもの頃の環境や教育方法が影響するといわれています。ここでは大きく「家庭環境」と「教育・社会環境での役割」の2つの観点から原因を探ります。
家庭環境
両親のどちらかがアルコール依存症や精神疾患を抱えている、あるいは極度に厳しいしつけを受けた場合などが典型例です。子どもにとって安心・安全を得られない環境で育つと、自己肯定感や他者との信頼関係がうまく築けず、後の対人関係や行動パターンに影響を及ぼすと考えられます。
加えて、子どものころに大人の役割を強いられ、親の問題を解決するために過度な責任を負ってきた場合などもアダルトチルドレンにつながりやすいです。
教育・社会環境での役割
学校や社会での過剰な期待や厳しい管理下で育つと、自分の感情より外部の評価基準が優先される習慣が身につきやすいです。
結果として、大人になっても「失敗を恐れる」「本音を言えない」といった行動パターンが残ることがあります。 過保護や過干渉もまた、子どもが自発的に行動する機会を奪い、自己肯定感や自主性の発達を阻害する可能性があるため、将来的にアダルトチルドレンの症状が出やすくなる場合があります。
アダルトチルドレンにみられるタイプ別の症状
アダルトチルドレンにはいくつかのタイプがあるとされています。
一般的には6つのタイプが挙げられ、それぞれ特徴的な行動パターンをもつといわれます。以下で概要を紹介します。
ヒーロー(英雄)
家族内で「何事も成功させる優秀な子」という立場を担い、周囲の期待に応えるために努力を惜しまないタイプ。周囲から見ると成果を上げる優等生ですが、内面では失敗を恐れ、常にプレッシャーと戦っている場合が多いです。
スケープゴート(いけにえ)
家庭内の不安定さを自分に向けさせるように、問題行動をとる役割を担うことが多いタイプ。非行や反抗的な行動をすることで家族の不満を一手に引き受ける形となり、自己肯定感を損ないやすいです。
ロスト・ワン(いない子)
存在感を消し、目立たずに過ごすことで家庭内のトラブルを回避しようとするタイプ。自分から何かを主張することが少なく、「影のようにいるだけ」という行動パターンが身についてしまいます。
ケアテイカー(世話役)
家族や周囲の問題を解決・ケアしようと奮闘するタイプ。他人の世話にエネルギーを注ぐことで自分の感情や欲求を後回しにし、自己犠牲的な行動が習慣化します。
ピエロ(道化師・クラウン)
家族の間の緊張を和らげるために、ジョークや冗談で場を盛り上げる役割を担うタイプ。明るく見える一方で、自分の本当の気持ちを表現できず、内面に孤独感を抱えている場合が多いです。
イネイブラー(慰め役)
問題を起こす家族(アルコール依存症など)を助長するような行動をとるタイプ。例えば、酒代を出したり、問題行動を隠したりすることで、逆に家族の依存症を深めてしまう場合があります。自分自身も対処行動に縛られがちです。
アダルトチルドレンと共依存
アダルトチルドレンの背景には、共依存という概念がしばしば関係します。共依存とは、他者との関係において自分の感情や行動を過度に相手に合わせ、相手の問題行動を容認・助長する状態です。イネイブラーやケアテイカーなどのタイプは共依存に陥りやすいとされ、相手との関係を維持するために自分を犠牲にし続けるケースが見られます。
共依存から抜け出すには「自分の問題と相手の問題を切り分ける」「境界線を引く」などのアプローチが重要です。カウンセリングを受けて客観的に状況を認識することが回復への第一歩になるでしょう。
アダルトチルドレンと発達障害
アダルトチルドレンと発達障害は別の概念ですが、複雑に絡み合う場合があります。発達障害(ADHDやASDなど)の特性によって幼少期に家族との摩擦が生じ、それが機能不全な家庭環境の一因となるケースや、逆に家庭環境が原因で本人が自己肯定感を失い、発達障害の特性が悪化して見える場合もあります。
同様の症状があっても、根本原因が発達障害なのかアダルトチルドレンなのかで対処方法が異なります。専門家のカウンセリングや医療機関での診断を受けることで、適切な支援を得ることが可能です。
アダルトチルドレンと精神疾患
アダルトチルドレンは必ず精神疾患を伴うわけではありませんが、長期間のストレスや不安感が続くと、うつ病や不安障害、パニック障害などを発症するリスクが高くなるといわれています。自分の感情を抑え込みやすい人ほど、限界を超えてしまいやすい傾向があるため、早期にサインをキャッチし、医療機関やカウンセリングを利用するとダメージを最小限に抑えることができるでしょう。
アダルトチルドレンを回復させるためには?
アダルトチルドレンの根本的な原因は家庭環境や過去の経験にあるため、回復には時間がかかる場合が多いです。ただし、適切なサポートを受けながら問題を整理し、自分の感情や行動パターンを見直すことで、徐々に生きやすさを取り戻す人も少なくありません。
カウンセリングを受ける
専門のカウンセラーや臨床心理士との対話を通じて、自分の感情や思考パターン、過去のトラウマを整理していきます。第三者の客観的視点を得ることで、自己理解や自己受容を進め、対人関係の改善につなげることができます。
自助グループや当事者会に参加する
同じような境遇や悩みを持つ人々と交流することで、「自分だけではない」という安心感が得られます。互いの経験を共有し、励まし合う場として自助グループは大きな支えとなります。
医療機関で治療を行う
うつ症状や不安障害などを併発している場合は、精神科や心療内科での治療が必要となることがあります。必要に応じて薬物療法や認知行動療法を受け、心身の状態を整えながらアダルトチルドレンの問題にも向き合うと効果的です。
アダルトチルドレンの克服にはカウンセリングなどの対処が必要
アダルトチルドレンは、幼少期の家庭環境や教育環境の影響を受け、大人になっても生きづらさを抱え続ける状態とされます。その症状は対人関係や自己肯定感に影響を与えるため、長年苦しい思いをする人も少なくありません。家族構成や役割の問題が原因となることが多く、特にアルコール依存症の親や過剰な干渉、厳しすぎる躾などが機能不全な家庭環境を生み出し、アダルトチルドレンの素地を作り上げます。
アダルトチルドレンにはヒーロー、スケープゴート、ロスト・ワン、ケアテイカー、ピエロ、イネイブラーなど複数のタイプが挙げられますが、いずれも家族内の緊張を和らげたり、問題を引き受けたりしながら子ども時代を乗り切った形跡がある点が共通しています。
共依存や発達障害、精神疾患との関連も指摘されるため、早めにカウンセリングや医療機関を頼ることが回復への近道です。 東京で心理カウンセリングをお探しの方は、ぜひHeart Life~こころの悩み相談所~にご相談ください。アダルトチルドレン特有の悩みにも幅広く対応しており、専門スタッフと一緒に心の問題を整理し、自分らしい生き方を取り戻すお手伝いをいたします。
この記事の監修者

横浜国立大学大学院臨床心理学専修卒業。卒業後、東京都市教育センターで発達に関する相談業務に従事。その後、神奈川県内の心療内科クリニックで心理士業務、東京都内心療内科・心理カウンセリングルームの心理士勤務を経て、2020年6月、渋谷・心理カウンセリングルーム「Heart Life~こころの悩み相談所~」を開業。2024年3月に「Heart Life~こころの悩み相談所~新宿店」を開業。
<公式SNS>YouTubeアカウント:「心理カウンセラー【臨床心理士】がうつ病について語るCh」
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